原題:Conspiracy 製作年:2001年 製作国:アメリカ・イギリス・ドイツ 上映時間:96分
ジャンル:歴史ドラマ/戦争/心理劇 私のおすすめ度:★★★☆☆/3.5

たった90分で、人類史に刻まれる死の“決定”がなされた。それは沈黙と礼節の皮をかぶった、冷酷な殺意だった。

作品解説・コメント

『謀議』は、ナチス・ドイツの“ユダヤ人問題の最終的解決”が正式に合意されたヴァンゼー会議を描いた衝撃の実録ドラマ。登場人物はたった15人、舞台は一軒の邸宅、時間はおよそ90分。それだけで、600万人の死を決定する話が進んでいく。

しかもこの映画に、銃声も絶叫もない。代わりにあるのは、紅茶と葉巻、敬語で丁寧に交わされる“処理”の相談。それも高官たちが、まるで業務の合理化を進めるかのように。

言葉を失う。なぜなら、そこに“悪”は存在しないように見えるから。むしろ知性と秩序、そして国家の論理が整然と並んでいる。

ケネス・ブラナー演じるハイドリヒは、その中心に立つ男だ。論理的で洗練されていて、誰よりも冷静。そして、誰よりも恐ろしい。

相手に異論を言わせない“話し方”で、テーブルを支配する。それが「殺す」という言葉を一度も使わずに、虐殺の道を正当化していくという恐怖に繋がっている。

会話劇でありながら、観ていて背筋が凍る。まさに、静寂の中で行われた集団殺人の共謀。それがこの作品の核だ。

【見どころ & ポイント】
最大の見どころは、ケネス・ブラナーが演じるハイドリヒの恐るべき存在感。冷静で、知的で、丁寧な語り口。にもかかわらず、その発言はすべて“死”へと向かっている。その静けさが、むしろ心を冷やす。

会議劇としての完成度も抜群で、ひとつの部屋の中、限られた時間の中で展開されるやりとりが、恐怖を積み重ねていく。

誰かが反対しそうになっても、その声は“秩序”によって押し潰される。沈黙こそが最大の武器であり、共犯の証であることを、この映画は教えてくる。

そして何より、この作品が突きつけるのは、“普通の官僚”たちがいかにして歴史的な犯罪に加担したかという事実だ。

それぞれが自分の役割を全うしただけ。誰もが「ただの手続き」だと思っていた――そこにこそ、この映画が描き出す恐怖の本質がある。

動画とあらすじ

《あらすじ》
1942年1月20日。雪に包まれたベルリン郊外の邸宅に、ナチス高官たち15名が集められる。招集したのはSS中将ラインハルト・ハイドリヒ。目的は、「ユダヤ人問題の最終的解決」について協議すること。

出席者たちは、軍、法務、外務、内務、各省庁の代表者たち。はじめは慎重に、遠回しな言葉で進んでいく議論。しかしハイドリヒが議論の流れを掌握すると、徐々にその言葉は曖昧さを脱ぎ捨て、むき出しのロジックと冷徹な合意へと形を変えていく。

その場にいた者の多くが、自ら手を汚すことはない。だが、誰ひとりとして“反対”を貫く者はいなかった――。

作品データ

《スタッフ》
監督:フランク・ピアソン
脚本:ロンサル・シルヴァーバーグ
製作:ケイシー・シルヴァー
撮影:スティーヴン・ゴールドブラット
音楽:クリス・ヤング
編集:アラン・ストルツェンバーグ
プロダクションデザイン:マイケル・コリアリー

《キャスト》
出演:
ケネス・ブラナー(ラインハルト・ハイドリヒ)
スタンリー・トゥッチ(アドルフ・アイヒマン)
コリン・ファース(ヴィルヘルム・シュトゥッカート)
デヴィッド・スレルフ(ゲルハルト・クロップ)
ベン・ダニエルズ(フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリンガー)
オーウェン・ティール(エーリッヒ・ナウマン)
ジョナサン・コイ(マルティン・ルター)
ブレンダン・コイル(ゲオルク・ライプブラント)
デヴィッド・シフマン(アルフレート・マイヤー)

【こぼればなし】
📌 映画の脚本は、実際に残されたヴァンゼー会議の議事録をもとに構成されている。セリフの一部は、ほぼそのまま記録に残された言葉。
📌 ケネス・ブラナーはこの役でエミー賞主演男優賞を受賞し、“最も知的で恐ろしいナチス”を体現したと評価された。
📌 コリン・ファースが演じる法務官は、消極的な抵抗を試みるものの、最後には沈黙に吸い込まれていく。その葛藤が観る側の胸を締めつける。
📌 映画の原題“Conspiracy”は、「共謀」「陰謀」の意。だがこれは、単なる秘密の計画ではない。国家ぐるみの静かな大量殺人の“段取り”である。

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