
原題:The Remains of the Day 製作年:1993年 製作国:イギリス/アメリカ
上映時間:134分 ジャンル:ドラマ/文芸 私のおすすめ度:★★★★★
“仕える誇り”と“生きる喜び”。静かな屋敷にこだまする、愛と後悔の物語
作品解説・コメント
この作品は、カズオ・イシグロのブッカー賞受賞小説を映画化した作品。舞台は戦間期から戦後にかけてのイギリス。
主人公は名門貴族ダーリントン卿に仕える執事スティーブンス。彼は徹底して感情を封じ込み、執事としての完璧な職務に生涯を捧げてきた。
誇りと忠誠にすべてを賭けたその生き方は、一見すると美徳のように映るが、やがてそれが大切なものを失う原因となっていく。
この映画の核心にあるのは、アンソニー・ホプキンスが体現した“沈黙の演技”。一言も声を荒げず、表情をほとんど動かさない。それでも沈黙の奥に押し殺された激情がじわじわと滲み出し、観る者の胸を締めつける。
エマ・トンプソン演じるミス・ケントンとのすれ違いは、互いに言葉にできなかった想いの痛みを象徴していて、人生における「もしも」を強烈に意識させられる瞬間だ。
映像は英国邸宅の荘厳な空気と落ち着いたトーンで統一され、静けさの中に潜む感情の波を浮かび上がらせていく。豪奢な屋敷に流れる時間は緩やかでありながら、その奥にあるものは決して穏やかではない。
まさに“沈黙のドラマ”という言葉がふさわしく、観終えたあとに自分の人生までも振り返らせる、重厚で余韻深い作品だった。
《見どころ》
本作の最大の魅力は、何といってもアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの演技に尽きる。
ほとんど感情を表に出さない執事スティーブンスが、沈黙や視線の奥に秘めた想いをにじませる一方で、ケントンは真っ直ぐで温かい感情をぶつけていく。
その対比が、私には強い余韻として心に残る。また、イギリスの大邸宅を舞台にした映像美や格調の高さも見逃せないポイントだ。
何より、この作品が描いているのは、“人生の誇りと後悔”という普遍的なテーマであって、ラストシーンには感動した。そして、自分自身の歩みを振り返らせてくれる辺りが大きな魅力になっていると感じる。
動画とあらすじ
《あらすじ》
1950年代、イギリス。名門邸宅ダーリントン・ホールに仕える執事スティーブンスは、休暇をもらいかつて共に働いたハウスキーパー、ミス・ケントンを訪ねる旅に出る。
車を走らせながら、彼の脳裏に甦るのはダーリントン卿に仕えていた日々。世界の政治が大きく動いていた時代、彼は主人に忠実であることこそが誇りだと信じ、私生活や愛情を犠牲にしてきた。
しかし、回想を重ねるにつれ、執事としての誇りに縛られるあまり、最も大切なものを見失っていた自分に気づく。彼が向かう先で待つのは、かつて愛しながらも結ばれなかったケントンとの再会だった。
作品データ
《スタッフ》
監督:ジェームズ・アイヴォリー
製作:イスマイル・マーチャント、マイク・ニコルズ、ジョン・キャレ
製作総指揮:ハロルド・パイダー
原作:カズオ・イシグロ
脚本:ルース・プラワー・ジャブヴァーラ
撮影:トニー・ピアース=ロバーツ
美術:ルチアナ・アリギ
衣装:ジェニー・ビーヴァン、ジョン・ブライト
音楽:リチャード・ロビンズ
《キャスト》
アンソニー・ホプキンス(スティーブンス)
エマ・トンプソン(ミス・ケントン)
ジェームズ・フォックス(ダーリントン卿)
クリストファー・リーヴ(ルイス議員)
ヒュー・グラント(カーディナル卿の秘書)
《こぼればなし》
・この映画はアカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされたが、惜しくも受賞はならなかった。
・舞台となるダーリントン・ホールの外観は、オックスフォードシャーのブレナム宮殿、内装は複数の英国邸宅を組み合わせて撮影されている。
・製作は「マーチャント=アイヴォリー」コンビ。『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』と並び、英国文芸映画の代表的傑作群を築いた。
《原題の意味合いとは》
「The Remains of the Day」とは直訳すると“日の残り物”。つまり“一日の終わりに残されたもの”を意味する。そこには、“人生を振り返った時に何が残るのか”という普遍的な問いが込められており、主人公スティーブンスの心境そのものを象徴しているようだ。
↓ ↓ ↓

